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A Specialized AETHOS Project
by Kosuke Masuda

人と自転車がひとつになれたら

人生最高のライドとは、人と自転車がひとつになること。そう考えたスペシャライズドは、あらゆるルールや固定概念に縛られることなくただひたすらにライドクオリティを追求したロードバイク「AETHOS(エートス)」を誕生させました。

ライダーにとって、究極の目標を形にしたAETHOS。この自転車の未知なる可能性を探りたいとの思いからスペシャライズドは作品制作を、あるアーティストに依頼しました。

アーティストの名は、増田孝祐。

僧侶であり芸術家である彼が、作品を生み出すまでの思考と制作の軌跡を彼の妻で、自身も写真や映像を対話の手段として活動する本保慶によるドキュメンタリーでたどります。

A Specialized AETHOS Project by Kosuke Masuda

Kosuke Masuda's Vision and Inspiration

Photo & Text by Kei Hompo

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼について】

...気がつくと常に筆かペンを動かしている

no. 1

気がつくと常に筆かペンを動かしている。
談話中、仕事の合間、散歩の休憩中。

増田孝祐は、高野山真言宗の密教僧侶であり、父親であり、家族と暮らす芸術家であり、私の夫である。  

彼は横浜の寺に生まれ、幼少期から美術が好きだった。彼の子供時代の絵やスケッチブックはとても魅力的で、心から絵を描くのが好きだと伝わってくる。ニュージーランドの国立オークランド大学美術科卒業後、2005年に和歌山県の高野山にて修行し彼の父や兄と同じく僧侶になった。自分と向き合う最良のタイミングで修行ができたと彼は話している。以降、僧侶と芸術家のキャリアをそれぞれ別個に築いてきた。

様々な手段で絵画表現活動を行う中、『自転車に関わる作品』を展開。特に、あらゆる自転車パーツに施した緻密な彫金作品は、嬉しいことに長年国内外で好評を頂いている。写真家である私は彼と創作を共にしてきた。その後2人で家族を築くようになると、私たちは物事への関わりや向き合いが更に深くなっていった。そのことをつうじて彼に変化が起きる。

僧侶や芸術家といった肩書きや活動は別個にあるものでなく、ひとりの人間として統合され、等身大に生きることの上にある、と気づいたのである。その頃から彼は、変革することの意味や自他の変容を受け入れることについて意識するようになった。

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼の〈創造の源〉】

...等身大に生き、変革することや変容を受け入れること

no. 2

彼は、身近なものの中に未知とおどろき、『辺境』を見つける。人は、辺境とは何処か遠くにある閉ざされた場所にあると想定しがちではないだろうか。しかし、近くにあるものの中には多くの辺境が存在する。

家族との関わりで得ているもの。
お気に入りの木陰。
いつもの曲がり角。
密教の教え。
日々の勤め。
そして描くこと。

全てが彼のいきいきとした『日常』である。その中に未知とおどろき、つまり辺境がキラキラと存在しているのだ。日々の暮らしの中で物ごとに丁寧に向き合い辺境に出会うことが、彼の創造の源である。

等身大に生き、変革することや変容を受け入れること。
それらを意識するようになってから目の前のいきいきとした『日常』こそがならうべき師となった。

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼が描くこと】

...いつも描いている最中は楽しそう

no. 3

「いつも描いている最中は楽しそうだけど、何を考えているの?」
「毎日の手触りを確かめているんだよ」

私がたずねると、彼はそう答えた。そうか、描くことで深く検証していることとなっているのか。

「描いていると何かを感じる?」「大きな、とっても大きな存在があって、その一部である自分を体感しようとしているかな。感じられることは、まれかもしれないけれど」

私たちは本来、『自然』と呼ばれているものに包括されている存在である。真言密教の教義では、『自然』や『宇宙』を大日如来と解されている。真言密教の実践的な修行の中で、それらとの一体感を得ることがあるという。また、「仏と一体となる」という想いが真言密教僧の根幹であるらしい。

もしかしたら、無意識のうちに、描くという行為自体に、彼のその想いが現れているのかもしれない。

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼は何を表現しているか】

...一見変化していないように見える我々の身体は

no. 4

これはガラスケースに保存された標本の恒常性とは根本的に異なる。前者は『生きている』状態、後者は『死んでいる』状態だと言える。  

彼は、その『生きた状態』に惹かれている。 

彼の作品と表現の特徴は、第一に下書きがないこと。次に、明確なモチーフを待たないこと。そして、自分の意図しない現象も積極的に取り入れ、さらに作品(制作物)と関わりを持ち続けられるように『使える』形を好むこと。

このような態度は、作品を生きたものとして認識しているからに他ならない。

自転車はそのような彼の意見の代弁者である。

人は、他との関わりがなければ生きて行けない。自転車もまた、作るにせよ、乗るにせよ、人がいないと機能しない。

自転車は彼にとって、『生きている』ことを捉え直し、考え続け、伝えるためのアイコンのひとつとなっている。

一見変化していないように見える我々の身体は日々新しい状況に直面し、常に新しい細胞に置き換わり変化対応しながら維持されている。

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼は何を道具や素材として選び、
どう向き合っているか】

...数ある彼の興味のひとつに石がある

no. 5

数ある彼の興味のひとつに石がある。
形の面白さや手に包んだときの重み、重ねてきた年月の深み。

彼は息子と2人で石拾いに出たら、なかなか帰ってこない。じつは、私も含めた家族全員のポケットにはいつも、拾ったお気に入りの石が入っている。

石は彼にとって、時間の流れを感じる変化の象徴と思える存在だ。それと同じように、彼は自転車部品の手に馴染むような質感や触れたときの意外性などを楽しんでいる。作り手の想いや人の手を渡って自分の手元へ到達したことに思いを馳せながら、彼は対象と関わる方法として、そこへ描く。

彼の代表的な技法の“キズ”で描く彫金や、時間とともに変化する銅の酸化を用いた緑青絵画は、『生きた状態』に惹かれる彼の、それを維持する試みの表れである。その直感的かつ鋭いライン、色味が変わって現れるもの、全てが見る人の心の深いところへ到達する。

そこに何を見るかは、作品と対峙する者とその像との間にある関係性に因るということを私は何度も見てきた。ある人には自分との対峙となり得るのだ。  

彼はAETHOSを、積極的に変化を受け入れ続ける器として、すなわち『生きているもの』として解釈する。

Kosuke Masuda's
Vision and Inspiration

【彼の手により現れた作品】

...私たちはAETHOSという稀有な存在の自転車に出会った

no. 6

そうして、AETHOSを素材とした『生きている』作品がうまれた。

彼はこの作品が『生きているもの』として機能することを望んでいる。

生きた状態を保つには、そのものと関わり続けること。だから、彼は作品に触れたり使ったりしてもらうことを望んでいる。どんな変化も受け止めて一緒に歩んでいく、いきいきとした関わりを人々に持ち続けて欲しいのだ。

私たちが使い、関わり続けることで、「自転車」は生き続ける。

私たちはAETHOSという稀有な存在の自転車に出会った。
このことは、必然であったように私には思われる。

この作品に完成はない。
私たちが、あなたが関わり続ける限り。

A Specialized AETHOS Project by Kosuke Masuda

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